尼僧少尉カタリーナ・デ・エラウソ

尼僧少尉カタリーナ・デ・エラウソ

時空を超える冒険者

La Monja Alférez, Catalina de Erauso: una odisea que trasciende la historia

坂田幸子 編訳

体裁:四六判・並製・カバー装・240頁
価格:本体2,600円+税
刊行:2025年5月
ISBN978-4-911029-17-6 C0097


時は大航海時代――
スペイン北部の町で良家の娘として生まれ、修道院で幼少期を過ごすものの脱走。男性として新大陸に渡航し、商人として、無頼漢として、兵士として、広大な南米大陸各地を渡り歩いた人物、カタリーナ・デ・エラウソ(1592ー1650)。
謎に包まれてきた伝説的人物が一人称でみずからの半生を語るテクストを本邦初翻訳。歴史やジェンダー、演劇や比較文学といった観点からの論考も6編収録し、人々の興味をかきたててやまない人物の真実に迫る。

十六世紀末、スペイン北部の町サン・セバスティアンに良家の娘として生まれた子が、幼くして女子修道院に預けられる。当時のスペインではよくあることだ。だが修道女になる誓いを立てる前に脱走し、髪を切り、修道院で着ていた服を男性用にみずから仕立て直し、旅に出る。フランシスコ、アロンソ、アントニオと、次々に男性名を名乗るこの人物は、見習い水夫として新大陸に渡り、時には商人として、時には無頼漢として、また時には征服戦争に参加する兵士として、広大な南米大陸各地を渡り歩く。戦闘や喧嘩で重傷を負うのも一度ならず。さらにはあわや死刑という危機もくぐりぬける。だがやがて女性であることを明かさざるをえない事態となり…… 
まるで冒険小説の主人公のようだが、こういう人物が実在したのだ。その名はカタリーナ・デ・エラウソ(一五九二~一六五〇年)。エラウソがみずからの半生を一人称で語る自伝的なテクストは、この人物自身と同じように数奇な命運をたどったのち、一八二九年にはじめて活字となり、それ以降さまざまなヴァージョンで流布するようになる。
そこで語られる波乱万丈の生涯や驚異に満ちた出来事の数々は、人々の興味をかきたて、魅了しつづけてきた。こんにちではこの人物を原型とする映画の登場人物やコミックのキャラクターも存在する。またエラウソの残したテクストは歴史、文化やジェンダー研究にとって貴重な資料だ。
本書はこの人物をわが国ではじめて本格的に紹介するものである。(本書「はじめに」より)

【目次】

 はじめに

第Ⅰ部
カタリーナ・デ・エラウソ『尼僧少尉の生涯と事蹟』
翻訳と解説(「自伝」成立の経緯)/坂田幸子

第Ⅱ部
第1章 カタリーナ・デ・エラウソの「自伝」に見る十七世紀前半の南米スペイン領植民地――十七世紀前半の南米スペイン領植民地/横山和加子
第2章 スペイン文化の黄金世紀――栄光と斜陽の時代の文芸/竹村文彦・坂田幸子
第3章 「尼僧少尉」、あるいはカトリック帝国における貞操と征服――カタリーナ・デ・エラウソの「自伝」が照らし出すジェンダーとセクシュアリティの諸問題/棚瀬あずさ
第4章 スペイン黄金世紀の演劇における男装の女性と演劇作品――『尼僧少尉』にみるカタリーナ・デ・エラウソの表象/田邊まどか
第5章 舞台とスクリーンの上の「尼僧少尉」――黄金世紀と二十世紀の演劇作品およびメキシコとスペインの映画から/カルロス・ガルシア・ルイス=カスティージョ(坂田幸子訳)
第6章 「獰猛な虎」か「高貴な子猫」か?――フェレール版カタリーナ・デ・エラウソ伝の翻訳・翻案の比較研究/坂田幸子

あとがき/坂田幸子

【編訳者略歴】
坂田幸子 (さかた・さちこ)
慶応義塾大学名誉教授。専門はスペイン語圏の文学。主な業績として「『27 年世代』の女性作家たち――コンチャ・メンデスとマリア・テレサ・レオン」(八嶋由香利編『スペイン 危機の二〇世紀』慶応義塾大学出版会、2023 年)、『ウルトライスモ――マドリードの前衛文学運動』(国書刊行会、2010 年)など。

【ジャンル】人文書/西洋史/ラテンアメリカ史 文芸書/スペイン文学