【汀日乗】平和と愛、理解しあうことの、何がおかしいんだ?

お知らせにも投稿したように、みずき書林から『原爆写真を追う』という企画を引き継いだ。

みずき書林の岡田さんとは、かれこれ15年ほどの付き合いになる。学生時代、勉誠出版でアルバイトを始めたときの担当社員が岡田さんだった。テキパキと仕事の指示を出しつつ、時にフランクにも接してくれる。編集者って、こういう人間なんだな、と感じながら仕事をしていた。その後さまざまな編集者と出会い、いろいろなタイプの編集者がいることは知った。けど、僕にとって最初に仕事をした編集者は岡田さんで、編集者の原像もそうだ。

ある日、頼まれた仕事を終えて岡田さんの机にもっていくと、PCのデスクトップ画像がエルヴィス・コステロだった。僕は当時、コステロが好きで、(あとWeezerのリヴァース・クオモも意識して、)四角い黒ぶちメガネをかけていた。「岡田さん! これ、これ」と自分のメガネを指さしてそれをアピールしたけれど怪訝な顔をされ、「僕もコステロ好きです!」と伝えてやっと意図が伝わった。そんなこともきっかけで、音楽の話や本の話、映画の話もするようになった。そうやって、仲が良くなっていった。

そういえばTシャツ持ってるなと思い出して引っ張り出した。右は大学時代に、たぶんclub snoozerで買った、ような気がする。左は勉誠時代、音楽フェスに行った後輩にお願いして買ってきてもらったもの。

その後、僕は勉誠出版の社員となり、岡田さんは社長になった。社長になったからって態度が変わるような人ではなくて、その後も上司と後輩として、一緒に仕事をしてきた。時には友人として、多くの酒を呑んだ。長い付き合いのなかで、僕には反抗期すらあった苦笑 社長を相手に反抗って何をやっているんだと思わなくもないけれど、それすらも受け入れてくれる度量が、岡田さんにはあった(それに甘えて反抗していたんだなといまになっては思うのだけど)。

2018年、岡田さんは会社を辞めて、みずき書林を立ち上げた。同じ年に、僕も転職し、勉誠出版を離れた。それでも定期的に会って、お互いの近況報告をしあったり、村上春樹の新刊についてあれやこれやと話をしたりしている。ひとり出版社で、楽しそうに仕事をする姿を見て、自分もいつかは、と考えるようにもなっていった。

2021年の夏頃、岡田さんが入院した。入院することになったとTwitterに投稿していた時は、病状もわからず、まあ、手術が終われば元気に退院するんだろうと、あまり、深刻にとらえていなかった。だから退院後のブログを読んで驚いたし、ショックだった。退院後、すぐに会いにも行った。いざとなったら、やれることは何でもやる。そう伝えた。

その後病状が落ち着いて1年経過。去年の夏頃には、『原爆写真を追う』も刊行できそうだ、と話していたのたけど、そのタイミングで再入院。その間、僕は僕で、ひとり出版社を始める準備を進めていた。岡田さんが退院した頃、僕はやっと屋号を決めた。9月末には、僕が社名を決めて新しいスタートを切る、ということで、岡田さんと同時期にひとり出版社を立ち上げたコトニ社の後藤さんデザイナーの宗利淳一さんも交えて、決起集会も開いてくれた。けどその後また入院。12月半ばに退院。その後、この企画の相談があった。

相談があった時点で、岡田さんは余命宣告をされていた。いまの体力的に、この本を刊行までこぎつけることはできない。だから、君の所で出してくれないか。そう言われた。いつか、何かを頼まれるとは思っていたけど、このタイミングで、この企画を託されるとは、思っていなかった。

一緒に仕事をしていたとき、社内の編集者間では、そこはかとないジャンルのすみわけがあった。話し合いをしてそうなった訳ではないのだけど、近現代史は岡田さん、近現代文学関係は僕、というすみわけが、なんとなくあった。その頃に岡田さんが刊行した『決定版 東京空襲写真集』や『東京復興写真集1945~46』といった写真集企画は、とても良い本だったし、話題にもなった。僕はその仕事をみながら、羨ましい思いも、悔しい思いも抱いていた。何を基準にするかはともかく、僕もいつか、そんな本を作りたい。そう思ったし、いまも思い続けている。みずき書林から出した本を見ても、岡田さんにとって、「戦争」や「空襲」といったテーマは、編集者として追い続けてきたものだったと思う。そのつながりの中にある企画を託されたことで、病状の深刻さを思い知らされた。その戸惑いもありつつ、やりますよ、と答えた。そして今に至る。

『原爆写真を追う』について、版元変更のアナウンスしたけれど、その経緯を、ちゃんと言葉にしなければと思った。それで書き始めたのだけど、岡田さんについては、いくらでも文章が書けてしまう。いまふとみずき書林のブログを見たら、岡田さんは岡田さんで、僕について書いていた。もう、公開往復書簡にでもしましょうか笑

本日のブログタイトルは、エルヴィス・コステロの1曲より。作詞作曲はニック・ロウ。戦争について考えることは、平和について考えること。僕はコステロのこういう曲が好きなのだけど、岡田さんはきっと「Alison」とか「She」が好きに違いない(未確認。ちがうかな)。

図書出版みぎわから刊行される『原爆写真を追う』を、岡田さんに見てほしい。いまはただ、それが実現できることを願っているし、それに向けて、編集を進めている。最近は調子もいいみたいだしさ、待っててください。

Elvis Costello & The Attractions / (What’s So Funny ‘Bout) Peace, Love And Understanding