【往復書簡「本を作ること、生きること」】第2回往路――「期待の次元」を語ること

先日投稿した、「【汀日乗】平和と愛、理解しあうことの、何がおかしいんだ?」で、みずき書林の岡田林太郎さんについて書いた。この投稿とほぼ同時に、みずき書林のブログに、「昨日の続き、嫉妬と未練のこと」という投稿がされていた。

岡田さんは、僕が会社を立ち上げる前から、HPを公開する前から、ブログに名前を出して、いろいろ書いてくれていた。それはきっと、僕がこれから出版社を立ち上げるにあたって、多くの人にそれを紹介したい、という親心からだったと思う。ありがとうございます。でも、こうやってお互いのブログで名前を出し合うなら、いっそ公開往復書簡でいいじゃないか。そう思って、岡田さんにオファーをしたところ、先日、第一回目の投稿をしてくれた。

往復書簡「本を作ること、生きること」第1回復路――嫉妬と未練についてもう少し

「まあ、ゆる~く始めてみましょう」と切り出したくせに、思っていた以上に、いま岡田さんがどんなことを考えているのかが素直に書かれていた(普段はあまり、そういう話をする人ではない)。これは大変だぞと思いつつ、しっかり受け止めながら、続けていきます。


岡田さんへ

往復書簡「本を作ること、生きること」への応答、ありがとうございます。

コステロの好きな3枚、いずれも聴いたことのないアルバムでした。The Attractions時代ばかり聴いているので、90年代以降のアルバムも聴いてみます。いま、バート・バカラックと組んだ「Painted From Memory」を流しはじめました。あと、持っているコステロ眼鏡の数にも驚きました笑

「お互いブログで言及し合うなら、いっそ往復書簡にしませんか?」と投げかけましたが、その連絡をするかどうか、とても悩みました。岡田さんは、優しいというか、責任感がとても強い。「そこまで引き受けなくてもいいじゃない」と思うことまで、自分ごととして引き受ける。だから、この提案をすることで、先輩としての責任感ゆえ、無理をしてでも引き受けてしまうかもしれない。そう躊躇はしたけれど、それでも、僕は岡田さんと、これまで通り、一緒に何かやりたかった。そんな後輩のわがままにのってくれたことが、素直に嬉しいです。

さて、岡田さんが「嫉妬」と「未練」という言葉について考えている一方で、僕はちょうど読んでいた本の影響で、「期待」と「回想」という言葉について考えていました。昨年、ちくま文庫から分厚い文庫本が刊行されました。鶴見俊輔が、年下の友人たちの質問に答える形で、自分のこれまでの過去について、自分の思想について語った本です。そのタイトルが、『期待と回想』でした。

その中で鶴見さんは、ロバート・レッドフィールド『ザ・リトル・コミュニティ』という本から受けた影響を語っています。この本でレッドフィールドは、「回想の次元と期待の次元というのはちがう」といっていて、それに心動かされたと。

鶴見さんは、「いつの時代でも未来は期待の中で見える。未来というものを、これからどうなるんだろうかという不安に満ちた、いろんな情緒によって揺れ動く不確実なものとしてとらえるでしょ。ところが回想の次元になると、不確実な未来としてとらえていたときのことを忘れてしまう」と語り、だから歴史を考えるときには、「回想の次元」からだけでなく、「期待の次元」からも見ることが大切だと思っている、と続けます。

この鶴見俊輔の言葉に照らし合わせれば、たぶんいま、岡田さんはみずき書林を「回想の次元」でみつつ、図書出版みぎわを「期待の次元」で見ているのだと思う。そこに未練や嫉妬が生じるのだろうと。「未練」は、辞書的には、「執心が残って思い切れないこと。あきらめきれないこと。また、そのさま」だという。でも、その「あきらめられないこと」は、無かったことにはならない。やろうとしていたこと、できるかも/できたかもしれないこともまた、岡田さんの、みずき書林の一部だと思うのです。だから、「本を作ること、生きること」、というタイトルでやっていきたい。「本を作れないこと、死に向かうこと」というのがいまの正直な実感だとしても、岡田さんが、これまでどんなことを考えながら本を作ってきたのか、これまでどうやって生きてきたのか、そして、これからどうんなことをしようとしていたのかを、覗いてみたいのです。

『期待と回想』には、鶴見俊輔が、岡田さんの好きな梅棹忠夫と、コーヒーを飲みながら議論をしていたというエピソードもでてきました。岡田さんは梅棹忠雄の本も、2冊編集していましたね。いま検索をしてみたら、刊行当時、勉誠出版のHPで公開していた特集ページが残っていました。

梅棹忠夫の「人類の未来」

岡田さんの編集した『梅棹忠雄の「人類の未来」』は、刊行されなかった本を、残された資料をもとに作り上げようとした本でした。言いかえれば、これは梅棹の「期待の次元」を復元した本です。僕はこれまで、岡田さんの「期待の次元」の話を聞いてきました。でもまだまだ、聞いていない話がある。そういうものを、この往復書簡で引き出したい。

「僕はおそらくはじめて、きみに嫉妬しています」という文章を読んで、「やれやれ」と思いました。これまで僕は「先輩風を吹かせながら」話す岡田さんにずっと嫉妬してきたのに、岡田さんは初めての嫉妬なのか! と。そのような感情を抱かせてしまう要因になっていることに申し訳なさも感じつつ、やっと仕返しできた、と思ってしまう自分もいます。でもまだ、また、岡田さんに嫉妬させられるでしょう。そのためにも、ああでもないこうでもないといろんな話をしながらやっていければ嬉しいです。

今日の1曲は、中村佳穂の「忘れっぽい天使」です(何度か勧めてますが、きっと聴いていないので、また伝えます)。

中村佳穂/忘れっぽい天使