よし、出版社をつくるぞ! と決めてから苦労したことは多々あるけど、一番時間がかかったのは、名前を決めることだった。
自分で作る会社だから、屋号は何でもよい。とかく自由につけていい。その「自由に」が難しかった。例えば自分の好きな小説から取るといっても、壁書房とか、砂の女書店とか、書肆密会とか、意味がわからない(Kabe Booksとか、意外と悪くないな)。堀書房、堀書店でもいいんだけど、なんだかしっくりこない。好きなバンドから取るか、とおもっても、Television Booksとか、出版社には思えない(でも悪くないか)。
一時は、「出版社の名前が決まりません!」と人に会うたびに相談していたほど。その中で、「ストーリー性がある名前だと良い」とアドバイスされて、パッと出てきた言葉が「みぎわ」だった。
僕の父親は10年ほど前から、地元の茨城県は大洗で漁師をしている。ひとり出版社ならぬ、ひとり漁師だ。好きが高じての転職だったのだけれど、父親の船の名前が「汀丸(みぎわまる)」だった。「親父の船から取りました!」って、名前の由来を話すストーリーがあるし、ネタにしやすいなと。水と陸地の境界線をさす言葉の意味も良かった。漠然と、物事のゆらぎであったり、境界線であったり、固定化したものをゆさぶるような言葉が良いかなとも思っていた。
が、その「みぎわ」という言葉を使った同業他社もいて、その後も名前の決定にまでたどり着かない。書肆みぎわ、に決まりかけたのだけど、「書肆」という言葉がちょっと難しい。じゃあいっそ、みぎわ丸書店でどうだ! と決まりかけたのだけど、「丸」がつくと、やはり船感が強すぎる。汀線(ていせん)という言葉があるよと教えてくれた先生もいて、汀線書房とかも考えた。が、いずれも決定打に欠ける… あれやこれやと言葉の組み合わせを考えながら、他の出版社のHPなどを見ているときに目に入ったのが、「図書出版」という言葉だった。これがなんだか、しっくりきた。そんな経緯で、会社名が決まりました。
父親の船の名前の由来にも面白いストーリーがあるのだけれど、それはまたの機会に。