「日本語」の文学が生まれた場所
極東20世紀の交差点
黒川創 著
体裁:四六判・上製・カバー・608頁
価格:本体3,600円+税
刊行:2023年11月下旬
ISBN978-4-911029-04-6 C0095
近代の「日本語」による文学の行き交いを、極東アジアの広がりに位置づける。従来の文学史を更新する決定的論考!
20世紀初頭の都市「東京」を諸民族が行き交う極東アジアのハブとして着目し、ここからの「日本語」文学の形成と、国境を越えて展開される言語表現の歴史を明らかにする。
夏目漱石や森鷗外の「言文一致」は、中国や朝鮮の「話し言葉」による文学革命と、何を共有したのか? 女性たちの生き生きとした話し言葉が、ここに現われ出たのは、なぜなのか? 植民地社会で「日本語」での創作を強いられた現地人の作家たちは、どんな抵抗と創造の軌跡を歩んだか? 今世紀に向かい、非日本人の定住者によって、新しく切り開かれてきた文学の領域とは?
「国境」と「外地」をキーワードとした「日本語」文学論の集大成!
この主題に着手してから、およそ三〇年を過ごしてきた。 一九九〇年代、三〇代だった私が、「外地」の日本語文学について手探りで調査を進めていたころ、当事者の台湾人、朝鮮人、日本人の作家たちのいくばくかは健在で、この人たちからじかに教えを受けられたことが、導きとなった。いまは、その人たちも、ほとんどが故人である。 過去について知ることは、未来に希望を見出すことにつながる。翳りゆく風光のなか、このごろ、私はそのようにも感じている。(本書「序」より)
【目次】
序
Ⅰ 鷗外と漱石のあいだで
第1章 鷗外と台湾と魯迅のあいだ
台湾映画の鷗外と北白川宮/「尖閣島」とは何か?/異なる言語の下で生きる――魯迅が日本にいたころ/中文と日文――働く者の創作の行き交い/葛藤の次元へ――“皇民文学”のなかで起きていたこと/さらに言語を失うことからの経験――一人の少年が本を読む
第2章 女の言いぶん
作家・森しげを読んでみる/「民報」の小母さん、前田卓の周辺/管野須賀子ののち
第3章 語りうる世界の深まり
移動について/地理について/語りうるものの膨らみ/残ったもののこと
おわりに
Ⅱ 〈外地〉の日本語文学の広がり
第1章 多面体の鏡――南方・南洋・台湾
はじめに/南島での記憶/台湾の“新文学運動”/黄氏鳳姿という少女が考えたこと/「決戦下」の日本語を宿主として語られたもの/生きている場所での滞留/「光復」後の日本語文学
作家と作品について(森三千代「どんげん」/井伏鱒二『花の町』/中島敦「マリヤン」/高見順「ノーカナのこと」/佐藤春夫「魔鳥」/楊逵「新聞配達夫」/中村地平「霧の蕃社」/黄氏鳳姿『七娘媽生』/張文環「芸妲の家」/坂口䙥子「春秋」「隣人」/龍瑛宗「邂逅」/呂赫若「風水」/王昶雄「奔流」/邱永漢「密入国者の手記」)
第2章 螺旋のなかの国境――満洲・内蒙古・樺太
はじめに/サハリン、「国境」の概念/樺太に芽ぐんだ日本語文学/日付の外のサハリン文学/満洲文学、広がりと領域/他者からの「満洲」経験/消えゆく場所に生きる
作家と作品について(宮内寒彌「中央高地」/小熊秀雄「飛ぶ橇――アイヌ民族の為めに」/譲原昌子「朔北の闘い」/安西冬衛『軍艦茉莉』/北川冬彦『戦争』/平林たい子「敷設列車」/谷譲次「安重根――十四の場面」/野川隆『九篇詩集』/今村栄治「同行者」/日向伸夫「第八号転轍器」/長谷川濬「家鴨に乗った王」/牛島春子「祝という男」/石塚喜久三「纏足の頃」/高木恭造「晩年」)
第3章 旗のない文学――朝鮮
はじめに/一九四〇年のクリスタル/異言語のアマルガム/鏡のなかの言葉/キメラの葛藤/肉体のなかの戦争/在日する肖像
作家と作品について(高浜虚子『朝鮮』/李寳鏡(李光洙)「愛か」/中西伊之助「不逞鮮人」/金熈明「異邦哀愁」/中島敦「巡査の居る風景――一九二三年の一つのスケッチ」/李箱「異常の可逆反応」ほか/李孝石「蕎麦の花の頃」/湯淺克衛「棗」/金史良「天馬」/井伏鱒二「朝鮮の久遠寺」/李石薫(牧洋)「静かな嵐」(第一部)/兪鎮午「南谷先生」/尹徳祚『歌集 月陰山』/青木洪「ミィンメヌリ」/金鍾漢『たらちねのうた』/小尾十三「登攀」/金達寿「塵芥(ごみ)」)
Ⅲ 新しい定住者が生みだす世界――金達寿から始まるもの
「在日朝鮮人」という意識の起源/根こぎにされた母子像/「内地」と屑鉄/ユーモアの発生源/被支配民族を結びつけたもの/『玄海灘』から始まる/日本とは、どういう土地か/「在日朝鮮人文学」を岩波文庫の緑帯に/背後に燃える火
[巻末資料]年表/索引/地図
【著者プロフィール】
黒川創(くろかわ・そう)
作家。1961年京都市生まれ。同志社大学文学部卒業。1999年、初の小説『若冲の目』刊行。2008年『かもめの日』で読売文学賞、13年刊『国境[完全版]』で伊藤整文学賞(評論部門)、14年刊『京都』で毎日出版文化賞、18年刊『鶴見俊輔伝』で大佛次郎賞を受賞。主な作品に『もどろき』、『イカロスの森』、『暗殺者たち』、『岩場の上から』、『暗い林を抜けて』、『ウィーン近郊』、『彼女のことを知っている』、『旅する少年』、評論に『きれいな風貌 西村伊作伝』、『鴎外と漱石のあいだで 日本語の文学が生まれる場所』『世界を文学でどう描けるか』、編著書に『〈外地〉の日本語文学選』(全3巻)、『鶴見俊輔コレクション』(全4巻)などがある。
【ジャンル】文芸書、人文書
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